2026年9月30日、Anthropicの経済研究チームは研究記事「What work can robots do?」と56ページの付録を公開しました。チームは二つの問いを一つの資料の中でまとめて検討しています。一つは、米国で人がしている仕事のうち、今のロボットにできる仕事がどれだけあるか。もう一つは、その仕事を人の人件費より安くこなせるケースがどれだけあるかです。二つの数字を米国の総労働時間という同じ基準に置くと、ロボットにできる仕事は34%、人より安くできる仕事は0.3%でした。ロボットにできる仕事は、安くできる仕事の100倍を超えます。

AnthropicはClaudeを使い、米国の約900職種にひもづく1万9,000の業務を一つずつ調べました

チームは米国の職業情報データベースO*NETから出発しました。O*NETには約900の職種が収録され、それぞれの職種で行う業務の説明が約1万9,000件ひもづいています。まずClaudeが業務説明ごとに体をどれだけ使うかを評価し、体を使う業務7,594件を選び出しました。「溝を掘る」や「ダンスを教える」は体を使う業務に入りました。タイピストが計算機で合計を検算する仕事は、手を使っていても外されました。

次にClaudeは、業務ごとにその仕事をする実在のロボットをWebで探し、出典の文章をそのまま引用しました。チームはロボットを、自ら感知して動く機械と定義しました。そのため、車をスキャンして噴射ノズルの位置を合わせる洗車機は含め、外科医がすべて操作する遠隔手術装置は外しました。根拠として認めたのは、実際の導入、商用販売、デモだけです。付録によると、Claude Opus 5は約65万回のWeb検索を行い、9万以上のWebページから27万5,000件を超える引用を残しました。

溝掘りを例に取ると、Claudeはこの業務にかかる時間をいくつかの場面に分けました。25%は開けた土地にまっすぐ溝を掘る場面、20%は埋設された配管やケーブルの周りを手作業で慎重に掘る場面です。前者は油圧ショベルに自律掘削制御装置を付ければロボットにできますが、後者は今のロボットにはできません。チームは、ロボットにできる場面が業務時間の半分以上を占める場合にだけその業務をロボットにできるとみなし、溝掘りはロボットにできない業務に分類されました。残りの時間をどんな場面に分けたかは、公開された説明にはありません。

最後にClaudeは、人一人が1年にこなす量の仕事をロボットがこなすのにかかる費用を推定しました。ロボット本体、設置、保守、ソフトウェア、電気代、監督、保険まで含め、固定費は年ごとに割り振って計算しています。この値を人の人件費と比べました。人の人件費は、米国労働統計局(BLS)の職種別総報酬に、その業務が占める時間の比率を掛けた値です。

この研究では、業務の分類、業務ごとの時間比率、ロボットの能力等級、ロボットの費用、職種単位の集計をすべてClaudeが推定しました。人の人件費も、BLSの総報酬にClaudeが推定した時間比率を掛けた値です。原文は費用の推定が「approximate」(おおよその値)だとし、結果は「more suggestive」(方向性を示す程度)だと述べています。付録は、Claudeが付けた業務時間と熟練度の変数をBLSの調査と照合し、相関係数0.76〜0.89を得ています。ロボットの能力等級とロボットの費用を人間の専門家の判断と照合した検証は、原文にも付録にも出てきません。Anthropicはロボットを販売していませんが、自社のモデルを測定ツールに使ったことに伴う利害については、原文で特に触れていません。

ロボットに「できる」仕事も、ほとんどは工場のようにロボット向けに作られた場所でしか成り立ちません

体を使う業務7,594件のうち、ロボットにできる業務は74%でした。これらの業務に人が費やす時間を米国の総労働時間に換算すると34%です。ただし原文の要約には「mostly in limited settings」(大半は限られた環境で)という但し書きが付いています。チームは、ロボットがその仕事をどんな環境でできるかを4段階に分けました。

等級ロボットがその仕事をできる場所体を使う業務全体に占める割合
E0どこでもできない約4分の1
E1工場の組立ラインのようなロボット専用の空間約半分
E2物流倉庫のような整った人の作業場22%
E3都市の道路のような整っていない開かれた場所2%

病院の配送ロボットが薬をナースステーションまで運ぶ仕事はE2に入ります。コンベヤーの上で患者の食事内容に合わせてトレーを組むロボットはE1です。体を使う業務全体の約半分がE1なので、ロボットにできるとされる74%のうち3分の2ほどは、工場のようにロボットのために作られた場所でしか成り立たない仕事です。道路のような開かれた場所でもできる仕事は、体を使う業務全体の2%にすぎません。

ロボットにできる範囲は少しずつ広がっています。原文によると、ロボットは毎年、それまでできなかった体を使う仕事のうち約2%を新たにできるようになりました。

DataCampのニュースレターThe Medianは、この74%が水増しされている可能性を指摘しました。Claudeは業務説明どおりに働くロボットが見つからない場合、似た業務をするロボットまで根拠として認めていたためです。付録もこのやり方をそのまま記しています。

ロボットが人より安い職種で最も人数が多い梱包作業員でも、ロボットが安くなるのは年に約2,500ドルでした

できる仕事と安くできる仕事を、米国の総労働時間という同じ基準に並べると、両者の差が見えてきます。原文はこう書いています。“Though robots can theoretically do tasks that add up to 34% of all work time, they are cost-competitive for just 0.3% today.” ロボットが理論上できる業務は総労働時間の34%に達するが、現時点で人より安くできるのは0.3%にすぎない、という意味です。

34%ロボットにできる仕事(米国の総労働時間ベース)
0.3%ロボットが人より安くできる仕事(同じ基準)
約2,500ドル梱包作業員一人分の仕事で、ロボットが人より1年に安くなる金額

ロボットが人より安い職種のうち、働く人の数で最も大きいのは梱包作業員です。米国では約56万人がこの仕事に就き、労働時間の97%をロボットにできる業務に使っています。チームはロボットの固定費を約10年の耐用年数と8%の資本コストで割り振り、保守、部分的な人による監督、電気代を加えて、ロボットの費用を年約4万5,000ドルと推定しました。人の人件費年約4万9,000ドルのうち、ロボットにできる業務の分である97%は約4万7,500ドルです。この額をロボットの費用約4万5,000ドルと比べると、ロボットは年約2,500ドル安くなります。ロボットが人より安い職種で最も大きなものでさえ、ロボットと人の費用差はこの程度です。

溶接工は、ロボットが人よりずっと高くつく側の例です。カメラとAIを備えたロボットは、溶接そのものは単独でこなせます。しかし人の溶接工は、大きな金属部品を運び、はしごに上って手の届きにくい継ぎ目を溶接し、品質を検査し、研磨や仕上げまで行います。ここまでロボットに任せると、必要なロボットの価格は人の溶接工の約5倍になります。清掃員と食器洗浄員の賃金は溶接工より2万5,000〜3万ドル低いのに、その仕事をするロボットは人の数倍の費用がかかります。清掃は標準化しにくく、ロボットは人より遅いからです。

The Medianは74%が水増しされている可能性を指摘しましたが、同じ記事は0.3%が逆方向にずれている可能性もあるとしています。0.3%は、ロボットがどれだけ人の費用に迫っているかを実際より小さく見せているかもしれない、という指摘です。原文の推定では、ロボタクシーはタクシー運転手より年約7,000ドル高く、0.3%には入りません。とはいえ、人の数倍かかる溶接ロボットや清掃ロボットと比べれば、ロボタクシーと運転手の費用差は小さいものです。原文は、ロボタクシーが費用のほかに規制の壁にも直面していると書いています。The Medianは両方向の根拠を並べ、実際の値は0.3%より少し低いことも少し高いこともありうると整理しました。この0.3%について、Redditには「人がロボットより安いというのは、かなり気が滅入る形の雇用保障だ」(humans being cheaper than robots is a pretty depressing form of job security)という反応も出ました。

ロボットの価格が毎年3%下がっても、人より安い仕事が総労働時間の10%に届くまで約40年かかります

原文は、米国の総労働時間の10%でロボットが人より安くなるには、ロボットの費用が約70%下がる必要があると計算しました。毎年3%ずつ下がるなら、そこまで約40年かかります。

約70%米国の総労働時間の10%でロボットが安くなるのに必要な費用低下
年3%チームが想定したロボット費用の低下率
約40年その低下率で10%に届くまでの期間

もっと近い時点の数字もあります。ロボットの費用が20%下がれば(年3%で約7年)、280万人がしている体を使う仕事でロボットが人より安くなります。この人たちは平均して労働時間の42%をロボットにできる業務に使っていて、この時間は米国の総労働時間の0.8%に当たります。

年3%という低下率は、日本銀行のロボットの生産者物価指数、デンマーク企業のデータ、米国の自動車溶接ロボットの事例、北米の産業用ロボットの平均販売価格という四つの資料を突き合わせて決めた値です。四つとも産業用ロボットの資料です。また40年という数字は、費用がすべての業務で同じように下がり、一つの業務にロボットを入れても経済の残りは変わらないと仮定した計算です。ヒューマノイドやAIで動くロボットが違うペースで安くなる可能性は、原文と付録で特に扱っていません。

チームは、職種ごとにロボットにできる業務の比率で点数を付けるやり方が、過去のデータとも合うかを確かめました。1977〜2024年のデータを同じ産業の中で比べたところ、業務をすべてロボットにできる職種は、ロボットにできる業務がない職種より20年後の賃金が7.1%低くなっていました(95%信頼区間5.4〜8.9%)。同じ比較で、雇用は34.2%減っていました(95%信頼区間16.4〜52.0%)。特許からロボットにできる仕事を探したWebb(2020)の指数と一緒に回帰分析に入れると、賃金と雇用が減る効果は、Webbの指数よりこの研究の点数のほうで大きく出ました。ただし、この時期のロボットは主に工場のようなE1環境にありました。そのため付録は、この結果は倉庫や道路に出ていくAIロボットについて多くを語らないと書いています。

ロボットが体を使う仕事を担うには、技術がそろうだけでは足りず、人より安くなる必要があります

チームは、ロボットが業務を代わりに担うのを妨げる要因も別に調べました。先の74%は、ロボットがどんな環境であれその業務をできるかを見た数字です。ここでは、その業務を人の代わりにロボットに任せるうえで何が障害になるかを見ています。74%は工場のような専用空間まで含めて「できる」と数えた数字で、以下の比率は人を置き換えるうえで何が引っかかるかを別に数えた数字なので、基準が異なります。能力不足は体を使う業務の約70%を妨げ、その中でも物をつかんで扱う操作(manipulation)の能力だけで半分を妨げています。AIの進歩で最も改善しやすい計画と推論の能力不足が妨げる分は8%です。規制は14%を、人々の好みは4分の1を妨げています。子どもに服を着せておむつを替える仕事や、客を迎えてワインリストを案内する仕事が、好みによって妨げられる例です。一つの業務を複数の要因が同時に妨げることもあるため、能力不足・規制・好みの比率を足すと100%を超えます。原文は、これらの要因をすべて検討したうえで一文を添えています。

“For nearly all tasks, costs would also need to fall.” ほぼすべての業務で、費用も下がる必要がある。

梱包作業員と溶接工を並べると、この一文の意味が見えてきます。梱包作業員の仕事はロボットにでき、ロボットは人より年約2,500ドル安くなります。溶接もロボットが単独でできますが、溶接工の仕事全体をロボットに任せると、ロボットの価格は人の約5倍です。技術の面ではどちらもロボットにできる体を使う業務74%の中に入っていても、ロボットが実際にその仕事を担い始めるのは、ロボットの価格が人件費を下回ってからです。

これまで、ロボットが仕事をどれだけ変えるかは、主にロボットがその仕事をできるかどうかで測られてきました。同じ仕事を人件費と並べてみると、ロボットが実際に入ってくるのは、できる仕事全体ではなく、人より安くなった仕事からです。

さらに詳しく知りたい方へ

What work can robots do? Anthropic経済研究チームの原文です。環境の等級表、職種別のロボット費用、費用低下シナリオの図が載っています。 anthropic.com

Appendix to: What work can robots do? 56ページの付録です。ClaudeがWeb検索でロボットを探した方法、BLS調査との照合による検証、1977〜2024年のバックテストが詳しく載っています。 cdn.sanity.io

Robots Are Cheaper than People for 0.3% of Work DataCampのニュースレターThe Medianが、この研究の方法を検証した記事です。0.3%がなぜ高い方にも低い方にもずれうるのかを、両方の根拠から整理しています。 dcthemedian.substack.com