2026年2月27日、Block(旧Square)のCEO Jack Dorseyは全社員にメモを送りました。「私たちが作っているintelligence toolsが、より小さくフラットなチームと組み合わさることで、会社を作り運営することの意味を根本から変えている。」 そして同じ日、4,000人以上の社員 — 全体の40% — に解雇を通告しました。
「LOVE」と書かれた帽子をかぶって社員にこのニュースを伝えたDorseyは、こう付け加えました。「私たちのビジネスは堅調だ。粗利益は成長し続けている。」経営難ではなく、AIという未来のためだというわけです。
株価は1日で22%急騰しました。 しかし元データサイエンティストのNaoko Takedaは、LinkedInにこう書きました。「この1年間、AIが全員の喉に押し込まれてきた。自分の生活がかかった仕事を奪うツールを強制的に使わせるのは、ディストピアそのものだ。」
そもそも何が起きたのか?
BlockはSquare、Cash App、Afterpayを運営するフィンテック企業です。2019年時点で従業員は3,835人でしたが、パンデミック期に爆発的に成長し、2022年末には12,000人を超えました。 Dorseyは今回の解雇で人員を6,000人未満に削減しました。
Dorseyのロジックは明確でした。解雇の5週間後、Sequoia CapitalのRoelof Bothaとともに「From Hierarchy to Intelligence」というエッセイを発表したのです。 核心的な主張:企業の階層構造は2,000年前のローマ軍から始まった情報ルーティング・プロトコルであり、AIが今や中間管理職の調整機能を代替できる、というものです。
Dorseyは「100人+AI=1,000人」という公式を打ち出し、 残った社員の生産性が1年以内に2.6倍伸びなければならないというガイダンスを示しました。
しかしThe Guardianがインタビューした現・元社員7名の証言は、全く異なるものでした。
「AIが生成したコードの95%は社内基準を満たさず、人間が手を入れる必要がある。技術的に可能なことと、CEOが自分の解釈で語ることは全く別の話だ。」
社員たちは、AIの使用が「推奨」から「義務」へと変わっていく過程を経験しました。AIツールの使用量やトークン消費まで監視され、人事評価にAI習熟度の項目が追加されました。あるエンジニアは「AIを使わなければ解雇対象になることは明らかだった」と証言しています。
さらに深刻なのは、社員たちが自分を置き換えるAIを自ら作り、教えるという状況に置かれたことです。どの業務を自動化できるかを毎週報告するよう求められ、そのデータが最終的に解雇の根拠となりました。
何が変わるのか?
興味深いのは、1年前にほぼ同じ実験をした会社があることです。それがKlarnaです。そしてその結果は、正反対の方向へと向かいました。
| Block(Dorsey) | Klarna(Siemiatkowski) | |
|---|---|---|
| 削減規模 | 4,000人(40%) | 約1,500人(30%) |
| 公式の理由 | 「AIが働き方を変えた」 | 「AIチャットボットが700人のオペレーターを代替」 |
| 株価の反応 | +22%(解雇当日) | 初期上昇後、企業価値が$40B下落 |
| 1年後 | まだ進行中(2026.04) | 人を再採用、CEO「失敗だった」と認める |
| CEOの発言 | 「ほとんどの会社が1年以内に同じ決断をするだろう」 | 「コストが支配的な基準だった。低品質が結果だ」 |
| 社員の反応 | 社内Slackにサムズダウン、トマト、ピエロの絵文字が数百個 | データサイエンティストの退職+LinkedInでの告発 |
| 隠れた背景 | パンデミック期の過剰採用で3倍増、$68Mのパーティの5ヶ月後 | BNPL市場の縮小、IPOへのプレッシャー |
両事例の共通点は明確です。経営の失敗をAIの物語として包み直したということです。
Om Malikはこれを「Narrative Substitution(物語の置き換え)」と呼びました。 運営上の大きな失敗をAI変革としてリフレーミングすることで、投資家や世間が現実を全く異なるフレームで見るようになる、というわけです。
Mizuhoのアナリスト Dan Dolevも「この解雇の大多数はAIのためではない」と分析し、 OpenAIのSam Altmanでさえこのパターンを「AI washing」と呼んでいます。
ただし、BlockとKlarnaで異なる点もあります。Blockは単にCS人員をAIに替えたのではなく、組織構造自体を再設計すると宣言しました。「From Hierarchy to Intelligence」エッセイで示した3つの役割 — IC(個別貢献者)、DRI(直接責任者)、プレイヤー・コーチ — は、すでに内部で運用されているとのことです。
本当の問いは「AIが人を代替できるか」ではありません。「経営陣がAIを言い訳にしているのか、本当に活用しているのか」です。
ポイント整理:私たちの組織はどうすべきか
BlockとKlarnaの実験から学べることは明確です。AI導入自体が問題なのではなく、「代替(replacement)」のフレームで近づいた瞬間に危険になるということです。
- 「代替」ではなく「拡張」のフレームから始める
Blockの失敗:社員に「自分を代替するツール」を作らせました。これは士気を破壊し、組織の信頼を崩します。代わりに「このツールで、あなたが10倍うまくできることは何か?」と問うべきです。Klarnaが後から転換したハイブリッドモデルがこの方向性です。 - 「AI解雇」を発表する前に、その数字が本当にAIのおかげかを検証する
Blockの1人あたり営業利益はフィンテック最下位($167K vs Adyen $281K)でした。これはAIの問題ではなく、運営の非効率です。 AIで生産性が上がったのなら、どのプロセスでどれだけ上がったかを具体的に測定してください。「100人+AI=1,000人」はビジネスプランではなく、バンパーステッカーです。 - AIツールの導入は段階的に、元に戻せる形で
Klarnaは700人を一度に解雇し、1年後に再び採用しました。Blockは4,000人を1日で解雇しました。IBMの調査によれば、AIプロジェクトの75%が約束したROIを出せていません。 10〜20%単位でAIの比重を増やしながら、品質メトリクスを確認してください。 - 社員のAI活用を「監視」ではなく「支援」として管理する
Blockはトークン使用量まで追跡し、AIの使用を強制しました。 結果は?「社員がAIにうんざりしている(People are fed up with AI)」という内部の反応でした。 Accentureも、AI使用のモニタリングで昇進を決めると発表して批判を浴びました。 強制ではなく、実際に仕事が速くなるワークフローを見つけて示してください。 - AIの物語と経営責任を切り離す
DorseyはXで過剰採用を認めています。「COVID時にSquareとCash Appを別々の二つの会社として作ったのは間違いだった。」 これはAIの話ではなく、経営の失敗です。両者を混ぜると、組織は混乱に陥り、市場は本質を見失います。
Klarnaの事例をさらに深く知りたい方へ
Klarnaの教訓 — AIで700人を代替してから、また人を採用する理由で、ハイブリッドCSモデルへの転換の具体的な過程と実践ガイドを取り上げています。




