シカゴのNorthwestern MedicineとナイロビのJacaranda Healthで、超音波検査を一度もしたことがない人たちが、携帯型の超音波機器を妊婦のおなかに当て、決められた方向になぞりました。この機器は、おなかに当てて動かすプローブです。画面に映るのはおなかの中の映像だけで、妊娠週数はタブレットで動くAIがその映像だけを見て算出しました。AIが出した週数の誤差は、同じ妊婦を専門の超音波検査士が検査して出した週数の誤差と同程度か、それより小さいものでした。
同じ妊婦を専門の超音波検査士も別に検査し、AIと専門家それぞれの妊娠週数を、妊娠初期のスキャンで確かめた週数と比べました
この実験は、2026年7月にJAMA Network Openに掲載された前向き診断研究です。研究チームは2都市で2,043人を集め、そのうち妊娠16〜36週の385人(シカゴ192人、ナイロビ193人)を主要評価の対象にしました。妊婦はそれぞれ2回検査を受けました。1回は、超音波の経験がない人が携帯型機器でおなかをなぞり、AIが週数を出す検査です。もう1回は、そこから1週間以内に受けた通常診療の超音波検査です。通常診療の検査では、専門の超音波検査士が胎児の断面を探して大きさを測り、Hadlock式で週数を計算しました。両者が出した週数は、妊娠初期に週数を確認したスキャンの値を正解として比較しました。
機器を持ったのは、超音波の経験がない5人です。シカゴの2人は正式な研修を受けず、説明書と口頭の説明、短いデモだけを受けました。ナイロビの3人は6時間の実習研修を受けました。検査は次の順番で行いました。
- 子宮底長を測る
おなかの上から測った子宮底長に応じて、画像の深さを11cm、13cm、15cmのいずれかに設定します。 - 決められた方向になぞる
Clarius C3の携帯型プローブで、縦に3回、横に3回、最大6回なぞります。この方法をブラインドスイープと呼びます。 - AIが機器の中で判読する
タブレットアプリのAIが、映像から直接妊娠週数を出します。操作者はリアルタイムの映像は見られますが、AIが出した週数は見られません。
研究費はGoogle LLCがNorthwestern UniversityとJacaranda Healthに提供し、一部はGates財団が負担しました。Google所属の著者が設計、分析、解釈、原稿執筆に参加し、データ収集は2つの現場機関が担当しました。著者のうち14人はGoogleの従業員かつ株主で、3人はブラインドスイープとAIを組み合わせた手法に関するGoogleの特許を持っています。以下の数字はすべて、この技術を開発した企業が設計・分析した研究から出たものです。
妊娠週数の平均誤差は、AIが4.2日、専門の超音波検査士が4.5日でした
ここでいう誤差は、推定した週数と正解の週数が何日ずれているかを平均した値です。AIは4.2日(95%信頼区間3.8〜4.6日)、専門の超音波検査士による標準手順は4.5日(4.1〜4.9日)でした。研究チームは開始前に「AIの誤差が標準手順より1日を超えて大きくなければ劣らない」という基準を決めており、AIはその基準をクリアしました。
4.2日は4.5日より小さいものの、研究チームが主要な検定で確かめたのは、AIが1日を超えて劣っていないかどうかでした。AIのほうが正確かどうかは主要評価では検定しておらず、2つの信頼区間も重なっています。研究チームは、誤差が一方に偏っていないかも調べました。標準手順は正解より平均0.7日少ない週数を出す傾向があり(−0.7日)、この偏りは統計的に有意でした。AIは正解より平均0.2日少なく出しましたが(−0.2日)、有意ではありませんでした。
| 区分 | AI(ブラインドスイープ)の平均誤差 | 専門の超音波検査士による標準手順の平均誤差 |
|---|---|---|
| 全体(385人) | 4.2日(3.8〜4.6) | 4.5日(4.1〜4.9) |
| シカゴ(192人、新しい機器に合わせて調整したモデル) | 4.1日(3.5〜4.7) | 4.6日(4.1〜5.3) |
| ナイロビ(193人、現地での調整なし) | 4.3日(3.8〜4.8) | 4.3日(3.8〜4.9) |
Google Researchのブログは、同じ結果を4.18日対4.48日と紹介し、次のように書いています。このブログは、技術を開発した企業が出した記事です。
“comparable to the current standard of care from expert operators and more expensive traditional, cart-based ultrasound machines”(専門家が、より高価な従来のカート型超音波装置で行う現在の標準診療と同程度)
ナイロビの妊婦のデータでAIを学習させていないのに、ナイロビではAIと専門家の平均誤差がどちらも4.3日でした
このAIはもともと、ノースカロライナ州のChapel HillとザンビアのLusakaで集めた妊婦のデータ(ブログによれば1,968人)で学習しました。そのときに使った機器は、通常の超音波装置とButterflyIQです。今回の研究の前に行った調整は、シカゴの予備研究120人のデータだけを使ったもので、目的は新しく使うClarius C3プローブの映像に合わせることと、36週を超えた映像を一部加えることでした。ブログによると、この120人は元の学習データの約6%にあたります。
ナイロビのデータは、学習にも調整にも一度も使っていません。ブログの表現では“zero local optimization”(現地での最適化ゼロ)です。それでもナイロビの193人では、AIの平均誤差は4.3日、同じ妊婦を検査した専門の超音波検査士による標準手順も4.3日でした。学習時に見たことのない病院と妊婦でも、AIは専門家と同じ誤差を出しました。
AIがナイロビのデータなしで専門家と同じ誤差を出したのとは対照的に、新しい機器には合わせ込みが必要だったことをうかがわせる兆候があります。シカゴの参加者53人に、Clarius C3に合わせる前の元のモデルを使ったところ、AIの誤差は5.1日で、標準手順の4.2日より大きくなりました。調整後、シカゴの192人では4.1日でした。ただし2つの数字は対象人数が異なるサブグループ解析なので、機器に合わせた調整で誤差が減ったと断定する根拠としては弱いものです。
論文は、この結果の限界も併せて記しています。ナイロビでは現地での調整をしていないため、性能をさらに高める余地が残っています。新たに試した機器メーカーはClariusの1社だけです。主要解析の範囲外である36週を超える妊娠末期では、ナイロビのAIの誤差が12.0日と、標準手順の5.0日の2倍を超えました(54人)。研究チームは理由として2つの可能性を挙げています。1つは、専門の超音波検査士が検査する時点で、正解として使った初期確認スキャンの週数をすでに知っていたことです。その週数を知ったうえで検査したのなら、専門家側の値が正解に近く出た可能性があります。もう1つは、妊娠末期の範囲でモデルを補う必要がある可能性です。
AIは専門家のように赤ちゃんの大きさを測らず、映像から直接週数を出すので、人は決められたとおりになぞるだけで済みます
標準手順では、専門の超音波検査士が画面を見ながら胎児の断面を探し、頭囲や腹囲、大腿骨長などの大きさを測ってHadlock式に入れ、週数を計算します。断面を正しく探し、正確に測るには熟練が必要です。
この研究のAIは途中で大きさを測らず、なぞった映像から直接、週数を日単位で出します。映像ごとに予測がどれだけぶれるかで信頼度をつけ、品質の低いスイープは受け付けず、残った映像の予測は、信頼度が高いものほど重く反映して統合します。操作者は結果を見ないままなぞったので、この研究で人が担った仕事は、決められた深さと方向でなぞる動作だけでした。
方式が違えば、誤差が大きくなる場面も違いました。探索的解析では、推定胎児体重が90パーセンタイルを超える大きな赤ちゃんで、標準手順の誤差は7.2日に広がりましたが、AIは4.4日でした(P=.004)。標本が小さいため、研究チームもこれを探索的な結果として扱っています。大きさを測る熟練の代わりに、この方式ではなぞった映像の品質が重要になります。別の研究チームは、スイープの方向を逆にする、プローブを裏返す、途中で止めるといったミスをシミュレーションし、こうした逸脱がブラインドスイープAIによる胎位・胎盤位置の分類に影響すると報告しました。そのうえで、品質の検出と撮り直しを提案しています。この研究では、週数の推定やGoogleのモデルは試していません。
同じ方式を使うツールはほかにもあります。ノースカロライナ大学の研究チームのモデルを使ったButterfly Networkのブラインドスイープによる週数推定ツールが、2026年3月にFDAの認可を受けました。記事によると、16〜37週で検証され、2分以内に推定値を出します。
ナイロビで機器を持った人たちが6時間の実習で身につけたのは、判読ではなく、AIが読める品質でむらなくなぞる方法でした
ナイロビの操作者3人が受けた6時間の実習は、お手本のスイープを見る、模型やボランティアで練習する、専門の超音波検査士に同行して見学する、という内容でした。シカゴの2人は、説明書と口頭の説明、短いデモだけを受けました。研修を誰が行ったかは、公開されている説明には書かれていません。
AIが品質が低いとして差し戻したスイープの割合は、シカゴがナイロビの4倍を超え、研究チームはこの差を6時間の実習研修の効果と見ています。一方、週数の誤差はシカゴ4.1日、ナイロビ4.3日で、大きな差はありませんでした。2都市は研修のほかにモデルの調整の有無も異なるため、研修だけの効果を誤差から切り分けることはできません。操作者ごとの信頼区間も広く、研究チームは、より多様な操作者で確かめる必要があると書いています。
現場でぶつかった問題も、判読より機器のほうにありました。患者を続けて診る間は充電する暇がなく、操作者たちは長時間つないでおく必要がある充電台より、交換できるバッテリーを望みました。不安定な電力、機器の耐久性、アップデート後のハードウェアとソフトウェアの再テスト、臨床医と患者の信頼を得ることも、研究チームが挙げた課題です。
これまでは、胎児の断面を探して大きさを測る専門家がいなければ、妊娠週数はわかりませんでした。この研究では、超音波の経験がなかった人が決められたとおりにおなかをなぞり、AIがその映像を読んで、専門家と同じくらい正確に週数を当てました。専門の超音波検査士がいない場所でも、人は決められたとおりむらなくなぞり、判読はAIが担うという形で仕事を分けられることを、この研究は示しました。
さらに詳しく知りたい方へ
JAMA Network Openの論文全文 設計、都市別の結果、限界、利益相反の開示をすべて確認できます。pmc.ncbi.nlm.nih.gov
Google Researchのブログ記事 学習、調整、検証の流れを図でまとめ、バッテリーなど現場の話も載せています。research.google
ブラインドスイープの品質評価に関する研究 スイープのミスがAIの分類に与える影響と、撮り直しで性能を取り戻す方法を扱っています。arxiv.org
