2026年10月5日、人事・財務ソフトウェア企業のWorkdayが「Global Workforce Report」を公表しました。Workdayの採用システムを使う大企業554社が人材募集の際に挙げたスキル条件を集計したところ、「AIツールを使える」という条件は2026年1月をピークに減っていました。同じデータで、「AIをつくって業務に組み込める」という条件は11か月間ずっと増え続けていました。 プレスリリースの副題は、この変化を「企業はAIにプロンプトを入れるだけの人ではなく、AIでつくれる人を求めている」とまとめています。
大企業554社の採用条件を11か月追うと、AIスキルの需要は二手に分かれていました
データはWorkday Recruitingに蓄積された採用リクエスト(job requisition)のスキル情報で、Workdayが顧客企業名を伏せた状態で集めたものです。採用リクエストとは、企業が空いたポジションをひとつ埋めるために「こういうスキルを持つ人が必要だ」と書いて採用システムに登録する書類です。期間は2025年9月から2026年7月までの11か月です。レポートは、リクエストに書かれたAIスキル条件を次の2つに分けました。
| レポートでの分類名 | レポートの定義 | この記事での呼び方 |
|---|---|---|
| 基礎AIスキル | プロンプトからコパイロットの活用まで、AIツールを日常的に使う能力 | AIを使うスキル |
| 応用AIスキル | 機械学習・ワークフロー自動化・LLM・AIエンジニアリングによってAIをつくり、業務に組み込み、運用する能力 | AIをつくって業務に組み込むスキル |
AIを使うスキルには、プロンプトを書く能力だけでなく、コパイロットを業務で使う能力も含まれます。AIをつくって業務に組み込むスキルには、AIをつくることに加えて、業務フローにつなぎ、動かし続ける運用まで含まれます。
読む前に知っておきたい限界があります。レポート本文には、変化幅が採用リクエストの件数ベースなのか、リクエストに占める割合なのか、スキルの言及回数なのかが書かれていません。どのスキル条件をどちらの分類に入れたかという基準も、公開資料にはありません。対象はWorkday Recruitingを使う従業員250人以上の大企業顧客なので、労働市場全体を代表するものではありません。発行元のWorkdayは、採用ソフトウェアやスキル管理製品、エージェントをつくるツールSanaを販売する会社でもあります。
プロンプトやコパイロットなどAIツールを使うスキルは1月のピークから25%減り、機械学習や業務自動化などAIをつくって組み込むスキルは2025年9月比で51%増えました
企業がAIを使うスキルを最も多く求めたのは2026年1月でした。レポートの表現では、その後は着実に(steadily)下がり、全体で25%減りました。AIをつくって業務に組み込むスキルは期間ごとに毎回伸び(rose every period)、2025年9月より51%増えました。この「期間」が月単位か四半期単位かは、公開資料には書かれていません。
2つの数字は基準点が異なります。25%は2026年1月のピークからの下げ幅で、51%は2025年9月の起点からの上げ幅です。そのため、2つの数字の大きさを同じ物差しで比べることはできません。データがはっきり示しているのは、2つの分類が動いた方向です。2026年1月から7月までの半年間、企業は採用リクエストにAIを使うスキルを書く回数を減らし、AIをつくって業務に組み込むスキルを書く回数を増やしました。
AIを使うスキルの重要度が下がったのか、誰もが備える前提になって書かれなくなったのかは、データでは見分けられません
採用リクエストのデータは、企業が何を書いたかは示しますが、なぜ書かなくなったかまでは含んでいません。レポートも方法論の中で、すべての傾向を因果ではなく記述(descriptive)として読むよう求めています。 教育業界メディアのLearning Newsも、レポートの数字を紹介したうえでこの点を指摘しました。
“Advertised requirements do not establish whether basic AI skills are becoming less useful or more widely assumed.”(求人に書かれた条件だけでは、基礎AIスキルの有用性が下がっているのか、それとも広く前提とされるようになったのかは分かりません。)
前者の解釈が正しければ、AIツールを使う能力は、企業が採用で重視しない能力になったことになります。後者が正しければ、わざわざ書く必要がないほど当然に期待される能力になったことになります。どちらが正しいかを判断する根拠はレポートになく、レポート自身もどちらとも主張していません。
25%が採用リクエストの件数なのか割合なのかも公開されていません。件数ベースであれば、採用そのものが減った影響が一部混じっている可能性があります。同じレポートが別のデータ(Workdayの人事システムの利用記録)で見たところ、典型的な企業の月間求人数は2025年3月の約83件から2026年7月の約79件へと4%減っていました。期間もデータも異なるため、この数字を25%から差し引いて計算することはできません。そして同じ11か月の間、AIをつくって業務に組み込むスキルの条件はむしろ増えていました。
テクノロジー業界だけは、AIを使うスキルもAIでつくるスキルも、より多く求めていました
554社全体ではAIを使うスキルの条件が1月以降減りましたが、テクノロジー業界はこの流れから外れていました。レポートはテクノロジー業界を例外として挙げ、この業界ではAIを使いこなしながらAIでつくることもできる人材への需要が伸びたと書いています。原文は “Technology is the exception, with rising demand for talent who can both use AI fluently and build with it.”(テクノロジー業界は例外で、AIを使いこなしつつAIでつくることもできる人材への需要が伸びている。)です。
レポートにあるのはこの一文だけで、テクノロジー業界の数字も、ほかの業界別の数字もありません。 そのため、テクノロジー業界でAIを使うスキルの条件がどれだけ増えたのか、テクノロジー業界を除くと減少幅がどれだけ大きくなるのかは分かりません。この一文から言えるのは、テクノロジー業界ではAIをつくって業務に組み込むスキルが、AIを使うスキルに取って代わったのではなく、その上に積み上がったというところまでです。
理由がどちらであれ、大企業の採用条件では「AIを使える」が書かれなくなり、「AIでつくれる」が書かれるようになっています
554社はWorkdayの採用システムを使う従業員250人以上の大企業で、レポートはこの傾向を記述としてのみ示しています。 その範囲の中で、2026年1月以降も採用リクエストで需要が伸び続けたAI条件は、AIをつくって業務に組み込むスキルでした。
AIをつくって業務に組み込むことが職場でどういう姿をとるのかは、Workdayがレポート公表の4日後に自社のエージェントツールSanaを紹介するため公開したブログ記事に出てきます。記事によると、WorkdayのHRビジネスパートナー(HRBP)の1人が、エンジニアリングチームに頼まずにSanaで評価キャリブレーション(calibration)用エージェントの試作品を自らつくりました。評価キャリブレーションとは、管理職がつけた人事評価をチーム間ですり合わせる作業で、このエージェントは社内Slackに投稿された質問をもとに学習しました。WorkdayのHRBPの83%がこのエージェントを非常に役立つと答え、利用者の半数はキャリブレーションの準備時間を最大75%短縮しました。回答者が何人だったかは記事に書かれていません。
同じ記事には、採用チームのマネージャー1人がつくった面接質問エージェントも登場します。Workdayには1,600を超える職種があり、スキル一覧は800項目を超えます。このエージェントは職種ごとに、その職種に必要なスキル1つにつき、カスタマイズした面接質問を2問ずつ作成します。
“an agent built by one person does it for all of them.”(1人がつくったエージェントが、そのすべての職種の面接質問をつくってくれます。)
2つのエージェントは、開発者ではない社員がSanaでつくったものです。こうした制作がレポートの応用AIスキルの集計に含まれるかどうかは、公開資料にはありません。この記事はSanaを販売するWorkday自身による製品紹介でもあるので、レポートの数字の根拠としてではなく、AIをつくって業務に組み込むことがどういう姿なのかを示す例としてだけ読むべきです。
2026年1月まで、大企業が人を採用する際に最も多く求めていたのは「AIツールを使えるかどうか」でした。その後この条件は採用リクエストから減り、いま大企業の採用リクエストで伸び続けているAI条件は「AIをつくって業務に組み込めるかどうか」です。
さらに深く知りたい方へ
Global Workforce Report: The Adaptability Advantage 基礎・応用AIスキルの定義(第3章、11〜13ページ)と方法論(22ページ)を原文で確認できるレポート全文のPDFです。forms.workday.com
Are Jobs Report Headlines Missing the Plot? Workdayの客員エコノミストAaron Terrazasが、同じデータを採用市場の動向とあわせて解説した記事です。workday.com
Jobs Mentioning AI Are Growing Amid Broader Hiring Weakness AIやAI関連の用語に言及した米国のIndeed求人が2025年末までに130%以上増えたと集計した、Indeed Hiring Labの2026年1月の労働市場レポートです。Workdayと違い、AIへの言及すべてを数えています。hiringlab.indeed.com
