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調査・分析

方法 · AIエージェントで古い記録アーカイブを探る

400年分の古文書をAIに一晩読ませたら、どの隕石目録にもない落下記録が出てきました

デジタル化した古文書の山と問いをひとつAIエージェントに渡すと、エージェントは意味で検索して候補の箇所を絞り込み、読んで翻訳したうえで、元のスキャン画像と突き合わせます。あるソフトウェアエンジニアはこの方法で古文書と古い新聞を調べ、照合した6種類の隕石目録のどれにも載っていない1812年の隕石落下の記録を見つけました。歴史学者のBenjamin Breenはオランダ東インド会社の文書から、ドードーの目撃年表で空白だった1611〜16年に入るドードー狩りの記録を見つけました。どちらの発見も、まだ専門家の確認を経ていません。スキャン1枚から、217年間読めなかった暗号の手紙を読み解いた人もいます。事例をまとめました。

2026年10月13日·事例 3件

1812年のJava Government Gazetteの紙面の一部。Cokurrgaum村の近くで雷雲から石が落ちてきたと伝える手紙を載せた記事
1812年12月19日付Java Government Gazetteの3面です。Waitesが照合した6種類の隕石目録のどれにもなかった隕石落下の記録が載っています。元の紙面はDelpher(オランダ王立図書館)にあります。出典:Jesse Waitesのブログ

冒頭の紙面は、1812年12月19日付Java Government Gazetteの3面です。その年の8月にボンベイの新聞に載った手紙を転載した記事で、こう書かれています。「a stone precipitated from a Thunder-cloud near the village of Cokurrgaum three days ago (the 6th August). It weighs I should think four pounds at least」(3日前の8月6日、Cokurrgaum村の近くで雷雲から石がひとつ落ちてきた。重さは少なくとも4ポンドはあると思う)。ソフトウェアエンジニアのJesse WaitesがAIエージェントと一緒に東インド会社の文書と古い新聞を調べていて見つけた記事です。Waitesが照合した6種類の隕石目録のどれにも、この落下の記録はありませんでした。

ここ数週間、こうした発見が相次いで公開されています。9月30日には、AIエンジニアのCarter Churchが、GPT-6 Astraで217年間解けなかったナポレオン軍の暗号の手紙を読み解いたとXに投稿し、この投稿は閲覧数538万回を超えました。 10月1日には、歴史学者のBenjamin BreenがOpus 5.5のエージェントで見つけた1615年のドードー狩りの記録を公開しました。 その1週間後、Waitesの隕石の記事はHacker Newsで184ポイントを集めました。

Waitesの手順はこうです。古文書を意味で検索できるように索引(埋め込み)を作って候補の箇所を広く拾い、安いモデルでふるいにかけたあと、大きなモデルが読んで翻訳し、元のスキャン画像と突き合わせます。 Breenは、埋め込み検索で拾った候補に大きなモデルで順位をつけさせ、そのリストを自分で確かめました。 2人とも、問いを立てることと、何が新しい発見なのかを見極めることは自分でやっています。

Reference 01ボストンのソフトウェアエンジニア Jesse Waites · 個人ブログ。WaitesによるAntiquityの紹介記事では、この作業が自身の事例として挙げられ、AIによる文書分析を個別に請け負う会社JTPCKの案内が添えられています。WaitesとJTPCKの関係は公表されていません。

東インド会社の文書435万ページを一晩でさらったら、どの目録にもないサイと火山噴火の記録まで出てきました

WaitesはBreenのドードーの記事を読んで、「I can do this」(自分にもできそうだ)と思いました。そこでまずDeep Researchアシスタントに、すでにオンラインにある資料で解けそうな歴史の問いは何かを尋ね、13個の候補を受け取りました。続いてClaude Codeと一緒にパイプラインを組みました。埋め込みで索引を作り、意味で検索し、小さな判定モデルJevでふるいにかけ、Claude Haikuが翻訳しながら日付と場所を抜き出し、Claude Codeのエージェントが元のスキャン画像と照合したうえで、学界がまとめた隕石・火山の目録と突き合わせる、という流れです。

オランダ東インド会社の文書435万ページ、570万の箇所を、GPU1台で一晩12時間かけて索引にしました。人が1日8時間、週5日、1ページ2分で読むとすると約70年かかる量だと、Waitesは見積もっています。ふるい分けも安く済みました。動物の記録を探す検索ではゾウが出てくる箇所が59,000件ヒットしましたが、これをJevに読ませてふるい分ける費用は約3ドルでした。 隕石を探すときは「a heavy stone fell from the sky with a loud report」(大きな音とともに重い石が空から落ちてきた)のような文で検索したと、JTPCKの事例紹介ページに書かれています。

本格的に探す前には、すでに知られている出来事をまず探し直させました。Breenのドードーの記録、1783年のラキ火山の噴火、1815年のタンボラ山の噴火が引っかかるかを見て、検索がきちんと機能しているかを確かめたのです。

結果は3つです。1つ目は、冒頭の紙面にある1812年の隕石落下の記録です。この記録は東インド会社の文書ではなく、古い新聞から出てきました。Waitesは東インド会社の文書とあわせて古い新聞記事も調べていて、隕石の記事はそのうちのJava Government Gazetteに載っていました。元の紙面は、オランダ王立図書館の古新聞閲覧サービスDelpherで見られます。 6種類の隕石目録のどれにも載っておらず、確認されれば、Cokurrgaumがあるインドのマハーラーシュトラ州でこれまで最も古い隕石落下の記録より26年早いことになります。

2つ目は、1738〜1740年にスリランカのキャンディ王へ贈り物として送られたジャワサイ3頭です。1738年に1頭、1740年にLoverendaal号で2頭が送られましたが、どれも到着前に死んでしまいました。Waitesは、自分が照合したサイの記録の一覧にこの輸送の記録を見つけられませんでした。3つ目は火山の噴火です。噴火の報告769件をふるいにかけると、スミソニアンの火山目録にない噴火が3件残りました。1722年2月のGamkonora、1712年初めのCiremai、1780年2月のSlametです。サイと火山の記録の原本は、オランダ国立公文書館にある東インド会社の文書です。

3つの結果はどれも、まだ専門家の検討を受けていない候補です。Waitesは隕石のキュレーター、サイの研究者Kees Rookmaaker、火山学者に連絡し、返事を待っています。どの火山だったのかまだわかっていない1808〜09年の大噴火も探そうとしましたが、バタビア(現在のジャカルタ)で最初に出た新聞の記事633件をすべて読ませても、関連する記録は見つかりませんでした。

WaitesがDeep Researchアシスタントに送った質問

which open historical questions are most likely to be solvable with data that already exists online?

Jevが動物の言及をふるい分けるときに投げた問い

Is this a real animal? Is it wild? Where is it?

探す対象に合わせて3つの問いを変えます。何万件もの言及のなかから、実際の記録だけを残すのに使われました。

Reference 02UCサンタクルーズ歴史学准教授 Benjamin Breen · Res Obscura(Substack)

ドードーの目撃記録が途絶えていた5年間。AIが古文書を探り、1615年の狩りの記録を見つけ出しました

Breenは動物の絶滅についての本でドードーの章を準備するなかで、Opus 5.5のエージェントにGLOBALISEの東インド会社文書を調べさせました。GLOBALISEは、オランダの研究機関が東インド会社の手書き文書をAIで書き起こし、無料で公開している事業です。 GPT-6もあわせて使いました。Breenの説明によると、Opus 5.5のようなエージェントは自分と同じエージェントを複数立ち上げて、さまざまな言語で書かれた史料を手分けして読み、APIキーを渡せば埋め込み検索も自分で回します。今回の作業では、エージェントが12個前後まで増えました。

エージェントが見つけた箇所は、1615年4月のWapen van Amsterdam号の航海日誌にありました。船員たちがモーリシャスで「caught many tortoises, dodos [dodeersen], and some geese and parrots」(リクガメとドードーをたくさん、ガンとオウムも何羽か捕まえた)と書いた記録です。原本はオランダ国立公文書館にある東インド会社の文書です。それまでドードーの目撃年表では1611〜16年の記録が空白でした。Breenはこの箇所をそこに入る新しい記録とみなし、「I do think that this is a publishable result」(論文として発表できる結果だと思う)と書いています。 コメント欄でも、自分の知る限り1615年4月の箇所はそれまで報告されたことがないと述べました。

すでに知られていた記録も原本で読み直しました。1638年の文書にある「velthoenderen」(モーリシャスクイナとみられる鳥)は、1890年のフランスの学者の翻訳で「perdrix」(ヤマウズラ)と訳されていましたが、Opus 5.5が元の写本に立ち返ってこの訳を正しました。 1615年の箇所も、この訳の訂正も、まだその分野の専門家による正式な検討を経ていません。

Reference 03SentinelOneのAIエンジニア Carter Church · 個人サイト

スキャン1枚をGPT-6 Astraに渡して約6時間。217年間読めなかったナポレオン軍の暗号の手紙が読み解けました

文書の山を探った事例ではなく、誰も読めなかった1通の文書を読み解いた事例です。Churchは、1969年にフランスの軍事学術誌に載ったマルモン将軍宛ての暗号の手紙のスキャン1枚をGPT-6 Astraに渡し、約6時間動かしました。エージェントはこのスキャン1枚だけを手がかりに、文字の書き起こしから解読までをやり遂げました。Churchは「I spent six hours of model time and a few evenings of my own」(モデルの時間を6時間、自分の夜を何回か使った)と書いています。

手紙は1,300個の暗号単位でできていて、使われていた記号は155種類でした。それまでに公開されていた記号の意味は33個だけで、それで読めるのは1,300単位のうち435単位でした。残りの約3分の2は、エージェントが手紙そのものから解き明かしました。手紙の全文をフランス語と英語で読み解き、1969年の再録版で誤って記されていた日付も1809年3月末に正しました。

解読キー(key.tsv)、書き起こした暗号文、検証スクリプト(verify.py・reproduce.py)を収めた解読パッケージも公開されていて、誰でも動かし直して確かめられます。イスラエルのメディアCalcalistは、暗号研究サイトCryptianaを運営するSatoshi Tomokiyoがこの暗号を「解決済み」にしたと伝えました。

みんなの反応

よかったという声

  • “The agents doing the grunt reading while you decide what matters feels like the actual division of labor.”

    エージェントが地道な読み込みを担い、何が重要かは人が決める。それが本当の分業だと感じます。

    Rohan Jaiswal · Breenの記事へのコメントresobscura.substack.com
  • “For every amount of pages you have the time to read, an LLM provides a means to filter the set of pages you choose to read to a set that is more likely to be useful. It does not need to be perfect at it”

    読む時間のあるページ数がどれだけであっても、LLMを使えば、読むページを役に立ちそうなものに絞り込めます。完璧である必要はありません。

    vidarh · Hacker Newsnews.ycombinator.com
  • “As an AI "hater", I definitely think there are very useful and net-positive (and underrated yet) applications of the LLM technology. Finding something in archives is definitely one of those.”

    AI「嫌い」の立場から見ても、LLMの技術にはとても役に立ち、差し引きでプラスになる(しかもまだ過小評価されている)使い道が確かにあると思います。アーカイブで何かを探すのは、間違いなくそのひとつです。

    sedan_baklazhan · Hacker Newsnews.ycombinator.com
  • “these kind of things are inspiring – especially if you are getting more confidence in that Mauritius-to-India link.”

    こういうことには刺激を受けます。特に、モーリシャスとインドのつながりに確信が深まっているのならなおさらです。

    ニューヨーク・タイムズのビジュアル調査報道チームの記者です。Breenは、モーリシャスのドードーがインドのムガル皇帝ジャハーンギールの宮廷まで渡った可能性があるという仮説もあわせて取り上げていました。

    Christiaan Triebert · Breenの記事へのコメントresobscura.substack.com

物足りなかったという声

  • “"Ree" refers here to a "r(e)ede": a safe place for large ships to anchor (so not a road).”

    ここでの「Ree」は「r(e)ede」、つまり大きな船が安全に錨を下ろせる停泊地のことです(だから道ではありません)。

    オランダ人の歴史考古学者です。Breenの記事に載ったAI翻訳が、航海記録のこの単語を「道」と訳していたのを正しました。

    Zachariah Hopkins · Breenの記事へのコメントresobscura.substack.com
  • “AI models can be confidently wrong”

    AIモデルは、自信たっぷりに間違えることがあります。

    モデルが、ジャワに降った火山灰を1,500km離れた火山のせいにしたことがありました。

    Jesse Waites · 本人の記事jessewaites.com
  • “Opus 5.5 and GPT-6 ended up spawning up to a dozen independent agents that that drilled down into minutiae and got utterly lost in the weeds.”

    Opus 5.5とGPT-6は最終的に独立したエージェントを12個ほどまで立ち上げ、それらのエージェントは細部を掘り下げるうちに完全に迷子になりました。

    適切な問いを立てることや、発見の意味を判断することはまだできないとも書いています。

    Benjamin Breen · 本人の記事resobscura.substack.com
  • “But I'm not sure amateur sleuths will be able to do anything relevant.”

    でも、アマチュアの探偵たちが意味のあることをできるかどうかはわかりません。

    この半年、LLMで100万ページを超える手稿を分類してきた歴史学者です。

    Thiago Krause · Breenの記事へのコメントresobscura.substack.com

始め方

Claude CodeやCodexのようなコーディングエージェントに、下の依頼を貼り付けるだけです。練習用の資料には、GLOBALISEが無料で公開している東インド会社の文書があります。

  1. はじめの依頼

    この記事の方法で、たまった記録をAIに調べさせたい。 https://www.working-ref.com/ja/library/archive-agents-2026-10 私が持っている記録[例:社内の議事録、顧客からの問い合わせ、古文書]で調べてみる価値のある問いを3つ提案して。1つ選んだらすぐに始めて。ただし、まず答えがわかっていることを探し直して検索が正しく動くか確かめ、広く拾ってから安いモデルでふるいにかけ、大きなモデルが読んだものは原本と照合して。選べるものがなければ、最初の事例のようにGLOBALISEの東インド会社の文書から、目録にない隕石落下の記録を探すところから始めて。

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