全世界の企業の60%がAIツールを導入していますが、実際にパイロットを運用段階まで移行できた企業は25%にとどまります。 デロイトが24カ国3,235名のC-レベルリーダーを対象に実施した調査によると、企業AIの現状は「野心は十分だが、実行はまだ初期段階」でした。

ひと目でわかる

調査規模: 24カ国、6産業分野、3,235名の幹部・経営層リーダー(2025年8〜9月実施)

主な発見: AIパイロットの40%以上を運用に移行した企業は25%。ただし54%が6カ月以内に達成可能と回答

変化のシグナル: 従業員のAIアクセス率が1年で50%拡大(40%→60%)、エージェント型AI導入は2年以内に74%が予定

アキレス腱: ビジネスモデルまで再設計した企業は34%、職務再設計に未着手の企業は84%

これは何?

デロイト AIインスティテュート(Deloitte AI Institute)が2026年1月のダボス会議で公開した「The State of AI in the Enterprise: The Untapped Edge」レポートです。 7年続くシリーズの最新版で、今年は「野心から実行へ(Ambition to Activation)」というサブタイトルが付いています。

レポートの核心メッセージは明確です。多くの企業がAI戦略を持っているものの、実際のビジネス価値を生み出す「活性化(activation)」段階に到達した企業は極めて少ない、ということです。

数字で見るAI実行ギャップ

  • 25% — AIパイロットの40%以上を実際の運用に投入している企業の割合
  • 34% — AIでビジネスモデルを根本的に再設計中の企業
  • 37% — AIを表面的にのみ活用し、既存プロセスをほとんど変えていない企業
  • 84% — AI能力に合わせて職務そのものを再設計していない企業
  • 21% — エージェント型AIに対応した成熟したガバナンスモデルを持つ企業

同時期にマッキンゼーも2026 AI Trust Maturity Surveyを発表しており、約500社を調査した結果、戦略・ガバナンス・エージェント型AIの管理において成熟度ステージ3以上に達した組織は約30%にとどまりました。 デロイトの発見と完全に一致する数字です。

韓国デロイトも同レポートを韓国語で発行し、国内への示唆を強調しています。韓国デロイトのAI統合サービスリーダーであるペ・ジェミン氏は、「企業の競争力は、AIをどれだけ深く内在化しているかにかかっている」と分析しています。

何が変わるのか?

昨年まで企業のAI議論は「導入するかどうか」が中心でした。今年からは「導入したのになぜ成果が出ないのか」へと問いそのものが変わっています。デロイトのレポートが捉えた構造的な変化をまとめると、次のとおりです。

区分以前(2024〜2025年)現在(2026年〜)
焦点AIパイロット実験運用移行・ビジネスモデル再設計
AIアクセス性従業員の40%未満従業員の60%まで拡大(1年で50%↑)
成果測定生産性改善中心売上成長・戦略的差別化を追求(売上成果達成は20%のみ)
AIタイプ生成AI中心エージェント型AI+フィジカルAI+ソブリンAIが同時に拡大
人材戦略AI専門家の採用全従業員のAIフルーエンシー教育(53%が最優先)
ガバナンス規制対応中心ビジネス成長の促進剤として認識が転換
ベンダー戦略グローバル大手テック中心77%がAIソリューションの開発国をベンダー選定基準に反映

特に注目すべき変化はエージェント型AIの台頭です。74%の企業が2年以内にエージェント型AIを配備する計画ですが、自律型エージェントのためのガバナンスモデルを持つ企業は21%にとどまります。 マッキンゼーの調査でも、セキュリティ・リスクへの懸念がエージェント型AI拡大の最大の障壁として挙げられています。

フィジカルAIも急速に広がっています。現在58%の企業が一定水準以上で活用しており、2年以内に80%まで拡大する見込みです。製造・物流・国防分野が先行しており、アジア太平洋地域が初期導入を牽引しています。

始め方のポイント

デロイトのレポートとマッキンゼーの調査を総合すると、AI「野心と実行のギャップ」を縮めるための実践ロードマップは次のとおりです。

  1. パイロット疲れを断つ「卒業基準」を設ける
    すべてのAIパイロットに、6カ月以内に運用移行するかどうかを判断する卒業・終了基準を設定しましょう。デロイトの調査では、54%の企業が6カ月以内に40%以上の移行が可能と回答しています。 基準なしに実験を繰り返すと、パイロット疲れ(pilot fatigue)に陥ります。
  2. 生産性を超えたKPIを設計する
    66%の企業が生産性向上を報告していますが、売上成長にまで結びついた企業は20%にすぎません。 効率化指標(時間削減・コスト削減)だけでなく、売上への貢献、新製品リリース速度、顧客体験スコアなど戦略的KPIを並行して設計しましょう。
  3. 職務の再設計に着手する
    84%の企業がまだAI中心の職務再設計に取り組んでいません。 「AIフルーエンシー教育」は必要ですが、それだけでは不十分です。役割の構造、ワークフロー、キャリアパスまで再設計してはじめて、実質的な活性化が可能になります。AIオペレーションマネージャーや人間とAIのインタラクション専門家といった新しい職務を具体的に定義してみてください。
  4. エージェント型AIのガバナンスを先に構築する
    エージェントを展開する前に、ガバナンスフレームワークを先に整えましょう。リスクの低いユースケースから始めてガバナンス能力を高め、段階的に拡大していく戦略が最も成功しています。 マッキンゼーによると、明確な責任の所在を定めた組織(成熟度2.6)はそうでない組織(1.8)を大きく上回っています。
  5. ソブリンAI戦略を点検する
    77%の企業がベンダー選定時にAIソリューションの開発国を考慮し、58%がローカルベンダー中心でAIスタックを構築しています。 データ主権、規制対応、サプライチェーンリスクの観点から、自社のAIインフラが戦略的な独立性を確保しているかを点検しましょう。

さらに深掘りしたい人へ

デロイト2026レポート原文

24カ国3,235名の幹部調査に基づくレポート。エージェント型AI、フィジカルAI、ソブリンAIなど7つの主要発見を詳しく分析しています。PDFの無料ダウンロードが可能です。

マッキンゼー 2026 AI Trust Maturity Survey

500社の責任あるAI(RAI)成熟度を5つの次元で評価。戦略・ガバナンスのギャップが技術能力に比べて遅れているという分析が、デロイトの発見と相互検証されています。

韓国デロイトレポート(韓国語版)

グローバル調査結果に韓国市場への示唆を加えた国内版。エージェント型AIの普及とソブリンAI戦略が国内企業に与える意味を重点的に解説しています。