ITサービスデスクにチケットを入れると平均で数時間待ち。それをAIが担当すれば99%速くなるとしたら? ServiceNowが2026年3月のZurichリリースで発表したAutonomous Workforceは、AIを「ツール」ではなく「チームメンバー」として配置するという発想の転換です。 単純にチャットボットを一つ付けるのではなく、L1サービスデスクAIスペシャリスト、セキュリティ運用アナリストといった役割(Role)を持つAIをチームに組み込むものです。
これは何?
エンタープライズAI市場で今最もホットなキーワードは「エージェント」です。SalesforceはAgentforce、MicrosoftはCopilot Studio、そしてServiceNowはAutonomous Workforceを投入しました。 3つともAIエージェントを打ち出していますが、ServiceNowのアプローチは少し異なります。
核心的な違いは、「タスク(Task)」単位ではなく「役割(Role)」単位でAIを配置する点です。一般的なAIエージェントが「このチケットを分類して」といった個別の作業を処理するのに対し、Autonomous WorkforceのAIスペシャリストは「L1サービスデスク担当者」という役割そのものを引き受けます。 組織のアクセス権限、ポリシー、監査証跡を人間の従業員と同様に適用され、問題を検知し、分析し、解決し、ナレッジベースまで更新する一連のワークフロー全体を実行します。
現在発表されているAIスペシャリストの役割は3つです:
最初に発売されたL1サービスデスクAIスペシャリストは、インフラテレメトリ、オブザーバビリティツール、セキュリティソフトウェアデータを総合して問題を診断します。 スクリプトに沿って動くのではなく、コンテキストを理解してシステムをまたいで推論するというのがServiceNow側の説明です。Nenshad Bardoliwalla(AI製品担当VP)は「私たちのスペシャリストは根本的に異なる — スクリプトに従うのではなく、コンテキストを理解してシステム間で推論を行う」と強調しました。
そしてここにAI Control Towerが加わります。全社に散らばったすべてのAIエージェント — ServiceNowのものであれ、サードパーティのものであれ — を一つの画面でモニタリングするガバナンスハブです。 どのAIがどのデータにアクセスしているか、LLMプロバイダーは承認済みか、プロンプトインジェクション攻撃はないか、処理時間・顧客満足度・エスカレーション率はどうかを一目で確認できます。CIOの立場から「AIを導入したけど何をしているのかわからない」という問題に正面から答えるものです。
EmployeeWorks — Moveworks統合で生まれたもの
ServiceNowが2025年12月に28.5億ドルで買収したMoveworksの会話型AIとエンタープライズ検索技術が組み合わさり、EmployeeWorksが誕生しました。 Teams、Slack、ブラウザ、モバイルどこからでも自然言語でリクエストすると、AIが複数のシステムをまたいで処理してくれる「従業員向けワンストップ窓口」です。約2億人のエンタープライズ従業員をターゲットとし、現在GA(一般提供)状態です。
何が変わるのか?
正直なところ、Salesforce Agentforce、Microsoft Copilot、ServiceNow Autonomous Workforce — どれも似たように見えるかもしれません。しかしアプローチはかなり異なります。
| Salesforce Agentforce | Microsoft Copilot Studio | ServiceNow Autonomous Workforce | |
|---|---|---|---|
| AI配置単位 | タスク/トピックベース | アプリ別コパイロット | 役割(Role)ベースのスペシャリスト |
| 主力領域 | CRM・顧客対応 | Office 365生産性 | ITSM・HRSD・SecOpsバックオフィス |
| ガバナンス | Einstein Trust Layer | Azure AI Content Safety | AI Control Tower(全社AI統合管制) |
| サードパーティエージェント管理 | 限定的 | Azureエコシステム内 | ServiceNow+サードパーティAI統合モニタリング |
| ワークフローエンジン | Flow Builder | Power Automate | Now Platform(決定論的オーケストレーション) |
| 従業員フロントエンド | Slack連携 | Teams中心 | EmployeeWorks(Teams・Slack・Web・モバイル) |
ServiceNowの強みは「バックオフィスワークフロー」にあります。SalesforceがCRM・顧客対応(フロントオフィス)に、MicrosoftがドキュメントやメールなどOffice生産性に強みを持つなら、ServiceNowはITサービス管理、HRサービス、セキュリティ運用といった内部業務の自動化が本業です。2025年のGartner Critical Capabilitiesレポートで「AIエージェントの構築・管理」部門で1位を獲得したのもこの領域です。
そして数字が目を引きます。ServiceNowは社内ですでにAutonomous Workforceを稼働させており:
従業員のITリクエストの90%以上をAIが処理し、人間と比べて99%速く解決するというのはかなり攻めた数値です。 もちろんこれはServiceNow自身の環境での話なので、顧客先の環境で同じ結果が出るかどうかは見守る必要があります。L1サービスデスクAIスペシャリストは現在Controlled Availability(限定提供)の状態で、2026年Q2にGA予定です。
押さえておきたいこと
AI Control TowerがサードパーティのAIエージェント(Microsoft、Google、Salesforceなど)まで管理できると言っていますが、現在は完全な可視性(full visibility)が保証されていません。 そして90%・99%という社内指標も、パスワードリセット、VPNトークンといった定型的なL1ケースを基準にしている点は考慮が必要です。複雑なL2/L3の問題にはまだ人間が必要です。
始め方のポイント
- 現在のITサービスデスクチケットを分析する
L1チケットのうち繰り返し発生するタイプ(パスワードリセット、ソフトウェアインストール、VPN問題)の割合を把握してください。これがAutonomous Workforce導入のROI基準になります。 - Zurichリリースへのアップグレードを検討する
Autonomous WorkforceはZurichリリース(2026年3月)に含まれます。 現在のServiceNowバージョンがYokohama以下であれば、アップグレード計画を立ててください。ZurichからAI Control Towerも使用可能になります。 - L1サービスデスクAIスペシャリストを申請する
現在Controlled Availability(限定提供)の段階です。ServiceNowの担当AEにアーリーアクセスをリクエストしてください。GAは2026年Q2予定です。 - EmployeeWorksのパイロットを実施する
MoveworksベースのEmployeeWorksはすでにGA状態です。Teams・Slackなど既存チャネルと連携して、従業員が自然言語でIT・HRリクエストを処理できるワンストップ窓口を作ってみてください。 - AI Control Towerでガバナンスを設定する
AIエージェントを増やす前に、誰がどのデータにアクセスするか・承認されたLLMモデルは何か・エスカレーションポリシーはどうするかをAI Control Towerであらかじめ定義してください。




