Figma Makeを使うとデザイン作業が20%速くなるという無作為化比較試験の結果が出ています。ただし、この数字をそのままチームのスケジュールや人件費に掛けてはいけません。持ち帰るべきなのは20%という結論ではなく、同じ課題に対してAIの使用有無だけを変えて比較した測定方法です。
20%速くなったという話は、どこまで信じてよいのでしょうか?
結論から言うと、実験に含まれた3つの課題では、Figma Makeが時間を短縮したと考える根拠はかなりしっかりしています。Figmaのデータサイエンスチームは、プロダクトデザイナー50人とプロダクトマネージャー50人、計100人を募集しました。参加者をMake使用群とAIを使わない対照群に無作為に分け、両グループに同じソーシャルメディア画面を修正してもらいました。
課題は、ライトモードをダークモードに変えること、設定メニューにヘルプ項目を追加すること、コメントが表示されるインタラクションを作ることでした。UIの外観変更から新しいビューとインタラクションの実装まで、難易度の異なる3種類を組み合わせ、事前パイロットを経て課題を3回修正しました。進行役ごとの支援レベルの違いを減らすため、共通の進行スクリプトとトラブルシューティング指針も使用しています。
全参加者の累積完了時間は20%減少し、課題の容易さ評価は16%、体感的な使いやすさは15%改善しました。PMだけを見ると、完了時間は23%減少し、課題の容易さは37%改善しています。分析には仮説検定とOLS回帰が使われ、Figmaは特記のない結果を統計的に有意だと説明しています。
興味深いのは、誰がより熟練しているかよりも、どの課題を担当したかが効果を分けた点です。PMは比較的簡単で短い2つの課題で有意な時間短縮を得ましたが、最も難しいインタラクション課題では得られませんでした。反対にプロダクトデザイナーは、難しい課題でのみ有意な改善を示しました。したがって、「デザイナー向けツールだからデザイナーに先に配布する」や「複雑な仕事ほどAIの効果が大きい」といった単純な導入原則は、この結果と合いません。
この研究からそのまま取り入れること
AIをよく使う人と使わない人の通常の作業時間を比較したわけではありません。役割や熟練度といった差を無作為割り当てで分散し、同じ難易度の課題を与え、AIへのアクセス有無だけを変えました。社内パイロットもこの構造に近づけるほど、「速い人はAIも多く使う」という錯覚を減らせます。
課題の速度はチーム生産性と同じ数字ではありません
最も重要な限界は、20%が3つの統制課題の累積完了時間であり、プロダクトチーム全体のリリース速度やコスト削減率ではないことです。公開ブログ本文には課題別の生時間や信頼区間は示されておらず、成果物の品質も主要な結果指標には含まれていません。Figma自身も、デザイン品質とコラボレーション効果は今後の研究テーマとして残しています。
| 研究で確認されたこと | 確認されていないこと |
|---|---|
| 定められた3課題の累積完了時間 | リサーチ・会議・承認まで含むプロジェクトのリードタイム |
| 課題がどれほど簡単だったかの評価 | ブランド適合性・アクセシビリティ・ユーザビリティなどの最終品質 |
| プロダクトデザイナーとPMの間の効果の差 | 個別チームの熟練度・デザインシステム・業務構成による効果 |
| 統制環境におけるMakeアクセスの因果効果 | サブスクリプション料とAIクレジットを差し引いた財務ROI |
AI生産性実験は、ツールや業務環境が変わると効果の方向まで変わる可能性があります。Googleのエンジニア96人を対象とした無作為化実験では、複雑な社内課題でAI機能が作業時間を約21%短縮したと推定されましたが、信頼区間は広く、研究者もこの結果を別のエコシステムへそのまま適用できないと述べています。 一方、METRの研究では、慣れたオープンソースリポジトリで作業した熟練開発者16人がAIを許可されたとき、246件の課題に平均で19%長くかかりました。参加者本人は、むしろ20%速くなったと感じていました。
体感的な節約時間だけを尋ねる方法も、別に見る必要があります。英国政府のAIコーディングツール試験では、回答者424人が1日平均56分を節約したと報告しましたが、報告書自体が楽観バイアスと課題ごとの節約時間が重複する可能性を限界として挙げています。調査回答者を時点ごとに結び付けられず、変化を追跡するのも困難でした。 「どれくらい速くなった気がしますか?」は満足度のシグナルであり、ストップウォッチで測った時間と同じ証拠ではありません。
Figma Makeを実運用すると、コスト変数も生じます。プロンプトを送るたびにAIクレジットが使われ、モデル、課題の複雑さ、処理するコンテキスト量によって消費量が変わります。 長い会話履歴、曖昧な最初のプロンプト、必要以上に重いモデルは、修正作業とクレジットを増やす可能性があります。反対に、小さな色や間隔の修正は、ポイントアンドエディットや直接コード編集で処理するほうが速く効率的だとFigmaのドキュメントも案内しています。
20% × 年収で削減額を計算しないでください
残った時間が実際の人件費削減につながるには、節約した時間を別の価値ある業務に再配分するか、外注費・残業・採用需要を減らす必要があります。まず合格した成果物1件あたりの総時間を比較し、その後に回収可能な時間だけをコストへ換算するのが安全です。
NISTも、AIの測定では特定課題の評価結果が別のユースケースや領域へ一般化できるかを、別の問いとして扱うべきだと指摘しています。 ですからFigmaの20%は購入判断ではなく、自チームでも検証する価値のある事前仮説として使うのが正確です。
2週間で自チームのFigma Make効果を測定する方法
大規模な導入計画より先に、頻繁に繰り返され、完了基準が明確な作業を3つ選んで、小さなクロスオーバー実験をしてみましょう。小規模な結果を全社的な因果効果とは呼べませんが、席数拡大とワークフロー選択には十分に有用な証拠になります。
完了基準のある課題を3つ選びます
最近の作業から、ダークモードのバリエーション、既存コンポーネントを使った設定画面の追加、クリック可能なインタラクションの実装のように、20〜90分で終わる課題を選びます。課題ごとに、必須状態、使用するコンポーネント、アクセシビリティ条件、許容エラー数をチェックリストで固定します。「見栄えがよい」のように採点者によって変わる基準だけにすると、速度比較は崩れます。
難易度が近いA・B版を作り、順序を入れ替えます
同じ人が同じ画面を2回作ると、2回目は学習効果で速くなります。機能と難易度は近いものの内容が異なるA・B版を作り、参加者の半分にはMakeでAを先に、残りには手作業でBを先に行ってもらいます。同一の機器・ライブラリ・制限時間を使い、進行役が介入する文言も決めておきます。
時間とともに品質・手戻り・クレジットを記録します
開始から提出までの経過時間、実際の操作時間、生成待機時間、修正回数、使用したAIクレジットを1行に記録します。成果物は作業方法を知らないレビュアーが同じチェックリストで採点します。合格しなかった成果物は、速くても節約として計算せず、合格までの修正時間を合算してください。
役割×課題別の中央値で配布範囲を決めます
(手作業の中央値 - Makeの中央値) ÷ 手作業の中央値で節約率を計算しますが、必ず品質合格率と並べて見ます。PMによる単純な画面変更、デザイナーによる複雑なインタラクションのように、効果が出た組み合わせから拡大します。時間が減っても合格率が低い、またはクレジットと手戻りが大きく増える場合は、その課題を手作業ワークフローに残してください。
最後に、実験ファイルとプロンプト記録を保管してください。Figma Makeでは、明確な最初のプロンプト、構造化されたフレーム、計画モード、特定要素を指定した編集など、入力方法によって結果とクレジット使用量が変わります。 ツールのバージョンやチームのガイドラインが変わったら、以前の結果と比較できるよう同じ課題で再測定する必要があります。
さらに深く知りたいなら
Measuring Time Savings From Figma Make — 100人の無作為化比較試験における参加者構成、3つの課題、役割別の結果を説明した基礎資料です。 figma.com
Create a Figma Make file — ファイル作成からフレーム添付、計画モード、プロンプト構成、クレジット使用方法まで、実際のメニューに沿って確認できます。 help.figma.com
Best practices for optimizing AI credits in Figma Make — 曖昧な最初のプロンプトと長い会話履歴が手戻りコストを増やす理由、直接編集を使うべき場面を整理した公式文書です。 help.figma.com
How much does AI impact development speed? An enterprise-based randomized controlled trial — AI生産性効果を無作為化実験で推定しつつ、広い信頼区間と一般化の限界も示した研究です。 arxiv.org
Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity — 体感では速くなったという回答と実測時間が逆になった事例で、自己申告の節約時間の危険性を理解するのに役立ちます。 arxiv.org



